フランスワインはこうして発展した


◆フランスワインはこうして発展した

皆さんは普段どんなワインを飲んでいますか?

「ワインは難しい…」「ワインはよくわからない…」と何気なく飲んでいませんか?

ワインを少し勉強すれば、大まかな生産エリアやブドウ品種による特徴などを掴むことができます。そして「こんなワインが飲みたい」という興味がわいてくれば、だんだん知識が深まりお店やレストランで自らワインを選べるようになっていきます。

私の場合は、偶然手に取った漫画『神の雫※』がきっかけでした。私もワインを勉強したい!という気持ちが湧きあがり、職場近くのワインスクールに駆け込んでいました。最初は入門から始めるつもりでしたが、ワインスクールの講師に受験をすすめられ、ワインエキスパートの取得に向けて勉強することになりました。

最初の授業のとき、分厚いテキストを目前にして衝動的に受験を選んだことを後悔しました。でも、勉強を進めるうちにどんどんワインの魅力に引き込まれていきました。また、講師やクラスメートにも恵まれたことも最後まで頑張れた理由の一つです。クラスメートとは、今でも一緒にフランスにワインの旅に行ったりしています。

きっかけはあちこちに転がっています。皆さんもこのコーナーでワインの勉強を始めませんか?

では、まず、ワインとは何か?から始めましょう!

※『神の雫』(原作:亜樹直 画:オキモト・シュウ 講談社)は主人公である神咲雫と異母兄である遠峰一青が亡き父の遺産(至高のワイン)を相続するために遺言に残されたわずかなヒントから、父が「十二の使徒」および「神の雫」と名付けたワインの銘柄を探し当てるのを競う物語。

1.ワインの味はブドウの品種や土壌が影響しやすい

言うまでもなく、ワインはブドウ果実を原料として醸造したお酒です。テロワール(terroir)という言葉を聞いたことがありますか?フランス語では、農産地とくにブドウの産地を指す言葉です。ブドウの根は地下数メートルから数十メートルにも達すると言われ、その土地に含まれる成分をしっかり吸い取り、ブドウの果実に伝えます。そのブドウを直接圧搾してワインを造るので、ワインの風味にとってテロワールはとても重要な要素になります。日本酒やビールなどの穀物を原料とするお酒はデンプンを麹や麦芽を使って糖化する工程などで「水」を加えて造りますが、ワインは原則「水」を加えずに醸造します。

そのことからもワインは他の種類に比べ、より原料であるブドウの品種・原産地・土壌・栽培方法や自然条件といった特徴が反映されやすいお酒といえますね。

ワインはブドウに含まれる糖分を酵母がアルコール発酵し、エチルアルコールに変換することでお酒になります。この化学式はフランスの化学者ジョセフ・ルイ・ゲイリュサック(Joseph Louis Gay-Lussac1778~1850)が提唱しました。また、アルコール発酵が酵母の働きであることを解明したのが、フランスの生化学者ルイ・パストゥール(Louis Pasteur 1822~1895)です。

2.中世の修道士がワインの発展に貢献

ワイン用ブドウの原産国は西アジアのコーカサス地方と言われており、ワインは紀元前から飲まれていたとみられています。そこから地中海にブドウ栽培が広がり、その後、ギリシャやローマの支配地域拡大とともにブドウ栽培も西欧各地に広がって行きました。

皆さんは「アンフォラ」という陶器の壺をご存じでしょうか?古代ギリシャやローマでワインの貯蔵や運搬に使用されていました。やがてワインの貯蔵は木樽となり姿を消しましたが、現代になってから巨大なアンフォラを使用してワインを造っているシャトーがあります。詳しくはボルドーの回でお伝えしますが、このアンフォラの材料となる土に、ブドウが植わっている畑の土も混ぜているというこだわりようです。一体どんなワインができるのか想像がつきませんね。

(ボルドー ポンテ・カネのアンフォラ=筆者撮影)

さて、ワインの歴史に戻りましょう。やがてワインはキリスト教の儀式に不可欠なものとなり、修道院や僧院でブドウが作られるようになりました。11、12世紀ごろから広大な領地でブドウを栽培し、ワインを貯蔵した木樽を岩肌をくり抜いた地下に眠らせる姿が一般的となりました。そこには修道僧たちの品質向上への並々ならぬ努力がありました。ワインで有名な修道士といえば、フランスのドン・ペリニヨン(1638~1715)ですね。彼はシャンパーニュ地方で生まれた修道士です。シャンパーニュ(日本ではシャンパンとも言う)の発展に大きく貢献したと言われています。かの、高級シャンパーニュ「ドン・ペリ」は修道士の名前だったのですね。

ブルゴーニュワインの産地として名高いボーヌ(Beaune)にあるオスピス・ド・ボーヌ(ボーヌ施療院)では百年戦争後の混乱の中、貧しき人達を療養させるため、ワインを造ってその運営資金にしていました。TGVのボーヌ駅から歩いて行けるところにあり、観光スポットの一つとなっています。中に入って見学も出来ますが、もと病院ということもあり昔の手術道具が展示されていたりして、少し気味悪い部分もありましたが、重厚で崇高な印象でした。ここで造られるワインは今でも高値で取引されるワインのひとつで、2018年は過去最高の売り上げを記録しました。


(オスピス・ド・ボーヌ外観=筆者撮影)



(オスピス・ド・ボーヌ厨房 =筆者撮影)

その後、16~18世紀のヨーロッパ宮廷文化では品質の高いワインが求められ、栽培技術の発展や高品質ワインの醸造が盛んになりました。また、人々の移動とともにブドウの苗木が各地に持ち込まれ、現在では世界中でワインが造られています。

ワインの歴史の詳細については、各地域のワイン紹介の中でも触れていきたいと思います。

3.醸造方法で4種類に分類

次にワインの種類について説明します。ワインは醸造方法により、以下の4種類に分類されます。

◆区分 概要 備考

① 発泡性ワイン

(スパークリングワイン) 発泡性があるワインのことで、一般的には3気圧以上のガス圧を持ったものを指す。

それ以下の発泡性ワインは弱発泡性ワインに分類される。 シャンパーニュ、カヴァ、プロセッコなど。

弱発泡性はペティヤン、フリザンテ、パールヴァインなど。

② 非発泡性ワイン

(スティルワイン) ブドウ果汁を発酵させた、発泡性のないワイン。通常、ワインはこれを指す。

赤ワイン、ロゼワイン、白ワインがあり、辛口~甘口まである。 アルコール分は9%~15%程度

③ 酒精強化ワイン

(フォーティファイドワイン) 醸造工程中に、アルコール40%以上のブランデーまたはアルコールを添加してワイン全体のアルコール分を15%~22%まで高めたもの。 シェリー酒やポートワイン、マディラなど。

④ フレーバードワイン ワインに薬草、果実、甘味料、エッセンスなどを加え風味を添加したもの。 ヴェルモット、サングリアなど

【主な概要】※製造方法は造り手によっても様々です。

① 発泡性ワイン(スパークリングワイン)

炭酸ガスが含まれたワインのことで、炭酸ガスの発生方法は大きく2種類あります。シャンパーニュやカヴァのように瓶内で2次発酵させる方法(タンクを使用する製法もあります)と、炭酸ガスを注入する方法です。一般的に前者の方が高品質で価格も高いです。

②非発泡性ワイン(スティルワイン)

赤ワイン、白ワイン、ロゼワインと言われる発泡性のないワインです。赤ワインはブドウの果肉はもちろん、皮や種も一緒に発酵することで、色や渋みがでます。一方、白ワインは最初に果汁を絞ってから発酵するので、色も透明~緑かかった黄金色となり、タンニンもありません。

ロゼワインは赤ワインと同じ黒ブドウを用いて、短時間醸してから圧搾のうえ本発酵するか、圧搾したもの(薄く色づいたもの)を発酵するなどの方法があります。

③フォーティファイドワイン

醸造過程でブランデーなどのアルコールを加え発酵を止めることで、ワインに糖分を残留させているワイン。アルコールを加えるタイミングで甘口にも辛口にもなります。フランスではV.D.N(Vin doux naturel 天然甘口ワイン)もその一つで、筆者も「バニュルス」が大好きです。

④フレーヴァードワイン

ワインに薬草、甘味料、果実、エッセンスなどを加えたもので、ニガヨモギなどの生薬を入れたヴェルモットなどが知られています。ワインにいろいろなフルーツを入れたサングリアも美味しいですね。

4.世界に冠たるフランスワイン

【ワインの品質を左右する気候】

ブドウは基本的に温帯地域の作物です。しかし、気温や雨量によって品質が大きく異なりますので、まずはフランスの気候について見ていきましょう。フランスは日本の北海道~サハリンと同じ緯度に位置しており北国のイメージですが、暖流である北大西洋海流の影響により厳しい寒さから守られています。

◆気候 特徴 地域


※気候の詳細は各地域のワイン紹介のなかでも触れていきます。

【生産量は世界2位、高級品で勝負】

各国のワイン生産量は表のとおりです、フランスは2011年、2014年は世界第1位でしたが、それ以降は世界第2位の生産量となっています。(単位 千ヘクトリットル)

フランスのワイン生産量は減少傾向で、特に2017年の不作などにより輸出量も減少しているものの、輸出額は4年連続で増加しており、より高品質(高額)な商品が売れ筋となっていることがわかります。

また、フランスワインの輸出先はアメリカが第1位となっており、2018年度の輸出額は前年比4.6%増の32億ユーロとなりました。

ちなみに、日本のワイン輸入量は第1位がチリ、第2位がフランスとなっています。ただし、輸入額でいくと第1位がフランスの965億円となります。チリ産のリーズナブルなワインが沢山輸入されているのがわかりますね。

【品質を保証するワイン法の歴史】

フランスのワインを勉強するとき、ワイン法とは切っても切り離せません。かなり複雑で覚えるのが大変なのですが、ワイン法はとても面白いと思います。なぜかというと、ワイン法がわかれば産地や品種、製法などがおのずとわかってくるからです。フランスに限らず欧米諸国にもワイン法がありますが、日本は2018年にようやく果実酒の表示に関する基準が定められたところです。

フランスでブドウ栽培が始まったのは紀元前6百年ごろと言われています。その後、古代ローマ人によってブドウ栽培とワイン造りがフランス各地に広められました。

フランク王国下でカトリックが認められていたことから、ミサに欠かせぬワインの生産が増えていきました。中世になると、シャルルマーニュ大帝(カール大帝)がワインの生産を推奨したことから、中世におけるブドウ栽培が最も繁栄した時期を迎えます。その後、シトー派の修道僧らの開拓によりブドウ畑が拡大し、ワイン生産の発展に貢献しました。しかし、1789年のフランス革命により修道院所有のブドウ畑は国家に没収され競売にかけられたため、細分化されて現在に近い形状になりました。

19世紀後半になるとフィロキセラ(害虫)の大発生によって、フランス中のブドウが壊滅状態に陥りました。そのため、粗悪なワインや模造品の流通などが横行したため、それらを規制する法律が制定されました。それがワイン法です。

ワイン法は1935年に制定され、A.O.C(Appellation d’Origine Controlee=原産地統制呼称)法と呼ばれています。この法律は、I.N.A.O(原産地・品質管理全国機関)の管轄下にあり農産物の生産者と消費者を守る法律として、ワイン以外にもチーズ、肉、オリーブオイルなど多くの農産物にも適用されています。

皆さんいかがでしたか?少しワインに興味がわきましたか?

このコーナーではフランスのワイン産地を紹介しながらワインが勉強できるよう構成していきたいと思っています。次回はフランスの産地全体とワインのラベル(エチケット)の見方を紹介する予定です。ぜひ楽しみにしていてください。

A bientot!


フランス事始め

政治から文化まで世界のモードを牽引してきたフランスを多面的に論じ、知識・理解を深めてもらうことで、我々の人生や社会を豊かにする一助とする。カテゴリーを「地理・社会」「観光」「料理」「ワイン」「歴史」「生活」「フランス語」と幅広く分類。横浜のフランス語教室に長年通う有志で執筆を手掛ける。徐々に記事を増やしていくとともに、カテゴリーも広げていく。フランス旅行に役立つ情報もふんだんに盛り込む。

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