パリ郊外の生活、ゆとりと多様性

パリ郊外の生活、ゆとりと多様性

フランスには、3万人程度の日本人が住んでいると言われます。ここでは、パリ郊外に娘家族が住み、孫たちの世話にこの10年ほど年に1、2回フランスを訪ねているXさんの当地での生活ぶりを紹介します。そこに、フランス社会のゆとりと多様性が見えてきます。

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Xさんの娘はパリ留学中に知り合ったイギリス人と結婚、夫の仕事の関係でパリ郊外のフーシュロー(Feucherolles)という町に住んでいます。フーシュローはパリの西30㌔にある閑静な住宅地です。パリの日本人駐在員には、ゴルフ場として名前が知られているかもしれません。お城やサッカークラブで有名な高級住宅地サンジェルマン・アン・レー(St-Germain-en-Laye)にも近いですが、フーシュローには鉄道は通っておらず車中心の生活といいます。

パリは19世紀後半の都市改造によって、工場など都市景観を壊す施設が郊外に移され、それに伴って労働者もパリ郊外へとはじき出されました。現代では加えてアフリカ系移民など低所得者層が郊外に移り住み、パリ北部など治安悪化が問題視されています。しかし、パリから西に離れたこの一帯は町から一歩でると自然に恵まれ、フランスの田舎の雰囲気が残る落ち着いたベッドタウン。パリに仕事を持つミドルクラスや、リタイア世代が集まり、Xさんの娘の交友関係にはヨーロッパ各地の出身者も多いそうです。

フーシュローは中世にはサント・ジェム(Sainte Gemme)という城のあった町で、今もメインストリートは18世紀、馬車が行き来していた頃の名残りで、長さ100㍍足らずの狭い道ですが、そこに役所、教会、駐車場、パン屋、カフェなどが並び、なぜか寿司屋まであります。フランス革命後に初めて統計がとられたとき200人ほどだった人口は、長い年月の間に少しずつ増え、1960年代に1000人を超えたのが、現在では3000人近くに膨らんでいます。今も緑の中の広い敷地に近代的な注文住宅や集合住宅が建設中で、その瀟洒なたたずまいは、古い面影を残すメインストリートと対照を成しています。

古いたたずまいの残るフーシュローのメインストリート


フランスの町にはどこにも地元住民の一押しのパン屋があると言い、Xさんが時折訪れるメインストリートのパン屋も古く、小さな店ながら、昼には客が溢れんばかりの繁盛ぶりとか。昔ながらの家族経営の店らしいですが、美味しいパンやバゲット、お菓子の香ばしい匂いがたまらないと言います。

しかし、小さなフーシュローの町では家族6人の生活品を賄うには不十分。車で20分の範囲内に何カ所か巨大な商業施設の集まった地区があり、何でも揃うので重宝します。子供に手のかかるXさんの娘はネットでスーパーに注文、指定時間に引き取り専用のパーキングに行って、品物を受け取っています。道筋にはトウモロコシ畑や馬の牧草地が広がり、広い空と緑の中を走るドライブは何とも快適とXさんは述懐します。

フーシュロー郊外の巨大商業施設

  広大な自然の広がるフーシュロー郊外


Xさんは娘家族の生活ぶりを見て、「フランスの暮らしにはゆとりがある」と感じています。夫は毎日車で30~40分かけてパリに出勤しますが、仕事時間を調整して、子供の学校への送り迎えに協力しています。夜も食事時間には間に合わなくとも、8時頃には帰宅して、子供たちを風呂に入れたり、絵本を読んで聞かせたりしています。世帯収入によって差はありますが、出産手当、育児手当も充実しているそうです。クリスマスやイースターの休暇の他、夏休みは3週間ほどあって、家族とバカンスに出掛けます。会社によっては旅費やホテル代の援助もあるというから、羨ましい限りです。

娘家族は普段の会話は英語が中心といいます。しかし、外での生活はフランス語で、子供たちには日本語も覚えさせたいと思っているそうです。今現在、上の孫たちは地元の小学校・幼稚園に通うかたわら、それぞれ週に一度ずつ、英語と日本語の学校へも通っています。いずれも車の送り迎えが必要なので大変です。

フランスの外国語教育は多様性に満ちており、特に昨今では英語を学べる学校の人気が高いと聞きました。孫たちが週一回、英語のクラスに通っているサンジェルマン・アン・レーの学校は、高校までの一貫教育の公立高でありながら、イギリス、ドイツ、イタリア、日本、中国等々、10数か国の言語のセクションに分かれていて、例えば英語のブリティッシュ・セクションでは、フランス語による一般授業に加え、科目によって英語で教育を受けるそうです。

孫たちは地元の公立学校でもヨーロッパ系の様々な同級生と一緒です。英語や日本語の学校でも同様、さらに日曜に行くパリの教会ではアフリカ系黒人の友達も多く、幼い頃から自然に様々な文化に触れていると言います。そこに、フランス社会の多文化世界があるような気がします。

フランス事始め

政治から文化まで世界のモードを牽引してきたフランスを多面的に論じ、知識・理解を深めてもらうことで、我々の人生や社会を豊かにする一助とする。カテゴリーを「地理・社会」「観光」「料理」「ワイン」「歴史」「生活」「フランス語」と幅広く分類。横浜のフランス語教室に長年通う有志で執筆を手掛ける。徐々に記事を増やしていくとともに、カテゴリーも広げていく。フランス旅行に役立つ情報もふんだんに盛り込む。

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